身体障害者

「さらばリハビリ」~あとがき

この本は、鈴木大介『脳が壊れた』(2016年、新潮新書)の二番煎じである。二番煎じではあるが、それは「二匹目の泥鰌」を狙った水増し本ではない。鈴木さんは私より若く、発症年も浅いのに、「リハビリ」に関するイメージが普通過ぎて呆れ返り、「そう…

「さらばリハビリ」~(36)障害者同士のコンフリクト(葛藤)は日本の習慣や文化が原因?

障害者同士のコンフリクトは、かつて健常者の私も知っていた。いまや電動車椅子ユーザーになって、その深刻さと怒りの感情はますますエスカレートした。 そのコンフリクトは、車椅子ユーザーと視覚障害者の間にある。幹線道路の歩道や駅、公共施設にも設置さ…

「さらばリハビリ」~(35)より快適な生活を求めて 

ここ数年、東京の街を車椅子に乗って観察した結果、地下鉄の駅が構造的にエレベータを設置できず、階段でエスカルに移動しないといけないことがわかった。鬼門は九段下の乗り換えと東銀座である。九段下の乗り換えは、一度地上に出て移動しないと乗り換えら…

「さらばリハビリ」~(34)「善良な車椅子ユーザー」のイメージを払拭してやる!

昨今、日本のスモーカーは徐々に駆逐されている。街なかでは喫煙エリアと称された体裁程度の灰皿が置いてある。健常者でこんな程度だから、車椅子ユーザーのスモーカーはいったいどうなるのか。 私が目の当たりにした喫煙エリアは、当然ながらアンチバリアフ…

「さらばリハビリ」~(33)40代以下の「若い失語症の集い」に参加して

上川あやさんとの会話で知った「若い失語症の集い」を、私はネット検索して参加した。参加費は2000円で、参加者たちの近況報告をダラダラとしゃべり、食事をし、最後に歌を歌って閉めるイベントである。失語症の原因は、私と同じ脳疾患、スキー事故、交通事…

「さらばリハビリ」~(32)単身リハビリ生活は、バリアフリーでないから大変!

ポンコツな医療ソーシャルワーカーにはもう頼らない。自分の部屋は自分で探す。病院の近所の不動産会社から生活保護用(都内であれば家賃平均約5万円)のアパートだけを選りすぐって吟味する。これじゃ収納スペースが足りない。私は不動産会社の担当に「候…

「さらばリハビリ」~(31)患者を支配・管理しすぎる医療のシステム

いまからおよそ30年前、大学の入学手続きのため田舎の病院で検査を受けて健康診断書を作成してもらったとき、医者から「あなたは糖尿病ですね」と診断された。特に治療薬の処方もなく、いまのように食事療法もなく、診断されても何も手の施しようがなかった…

「さらばリハビリ」~(30)アバウトに聞かれるオープン型質問と、YES/NOで答えるクローズ型質問

介護や看護で用いられる面接/会話技法に、「KOMI理論」がある。この技法はかなりメジャーなので簡単に説明する。 患者とやり取りをする質問には2種類ある。クローズ型(YES/NOで答える)質問とオープン型(YES/NOで答えられない、もしくは5W1Hの)質問で…

「さらばリハビリ」~(29)感情のコントロールができない「感情失禁」

高次脳機能障害の主な症状は、いまはない、と思いたい。自然治癒した症状もあり、後は工夫して訓練して克服した。たとえば一般のカレンダーは読めないが、黒白反転した「大活字カレンダー」を買ったら少しは読めるようになった。アナログ時計もいまは読める…

「さらばリハビリ」~(28)エレベータの「開閉ボタン」も読めない

山田規畝子さんの本は、急性期病院のSTに教えてもらった。私の症状が「高次脳機能障害」に似ているというのである。 高次脳機能障害とは、主に脳の損傷によって起こされるさまざまな神経心理学的障害である。主として病理学的な観点よりも、厚労省による行政…

「さらばリハビリ」~(27)高次脳機能障害の処方箋

山田規畝子さんは整形外科の医師であるが、生まれつきモヤモヤ病(ウィリス動脈輪閉塞症)の持病を持っていて、これまでに脳出血を3回発症し、2回目の発症で軽い右片麻痺になり、メスを持つことができず整形外科医を断念したという。 その代わり、彼女は持…

「さらばリハビリ」~(26)装具の交換などいろいろ面倒くさい生活

退院した患者たちは電動車椅子を注文せず、そのまま歩いて回復していった。最初から電動車椅子の楽チンライフを夢見た私は、心のなかでリハビリを拒否し、怠けていた。 電動車椅子と歩装具(短下肢装具)を併用し、歩装具は入院時に制作した黒いシューホング…

「さらばリハビリ」~(25)「困ったことは誰に訊こうか?」が一番困った

私が生活するなかで、業務の上で支援してくれる人々はたくさんいる。私からみて一番近い順、一番頻繁に連絡する順は、ケアマネージャー、訪問介護(ヘルパー)、訪問リハビリ(各療法士)、訪問看護(爪切り)、かかりつけ医、生活保護ケースワーカー、障害…

「さらばリハビリ」~(24)介護事業所は2種類ある~高齢者用と障害者用を試してみた

1997年の国会で制定された介護保険法に基づき、2000年4月1日から介護保険法が施行された。幸か不幸か、40歳になった私は介護保険の被保険者になった。しかし、障害者自立支援法との兼ね合いがあり、不勉強なケアマネはどちらの制度が使えるか使え…

「さらばリハビリ」~(23)医療ソーシャルワーカーより障害者研究の友人が心強い

退院を間近に控え、区内のアパートで一人暮らしできるかを確かめるため、医療ソーシャルワーカーの同行で物件を見に行った。仮に入院した病院が板橋区なら、提供する住居は板橋区限定になる。患者が慣れ親しんだ土地を離れない配慮だと思うかもしれないが、…

重度身体障害者はセクシュアリティやジェンダーに関係ない「代替不可能なもの」がある

『最強のふたり(2011)』鑑賞。いやー、良かった。実話に基づくフランス映画で、頸椎損傷の大富豪フィリップと失業保険のサインが必要だったドリスが、なぜかフィリップの介護をすることに。ふたりは男性だが、初老の白人で金持ちで雇い主のフィリップと、…

「さらばリハビリ」~(22)暇つぶしの1000ピースパズルがリハビリに?

回復期病院とはいえ、言語障害はST(または一部のPT)にしか理解できない。私はますます話すのが苦痛になった。ネットPCは飽きたし、本も物理的に読みづらいしで、私は膨大な暇つぶしをするため、1000ピースパズルを3種類、ネットで購入した。パズルは…

「さらばリハビリ」~(21)STが勧めた「高次脳機能障害」の本

急性期病院のSTが、私の症状を聞いて、「もしかするとこの本に出てくる症状かもしれない」と紹介してくれた。STは主治医より脳疾患患者の症状を詳細に知っている。STにとって、心理学を学ぶことは重要だ。どの患者もみな個性や症状が違うし、障害の受容のし…

「さらばリハビリ」~(20)さまざまな高齢女子(?)患者

回復期病院に入院したころ、私の気持ちはミソジニーだらけでいっぱいになり、同室の患者と一言も話さなかった。女子会ならぬ団子ババアたちは固まって食事をとり、メンバー以外は話さない閉鎖的なグループに見えた。 私は同室患者に興味と関心があったわけじ…

「さらばリハビリ」~(19)障害者こそネットがなければ生きられない

小学校低学年のころ、私は本を読むのが苦手だった。まったく頭に入ってこなかったし、長いこと読書をすると頭が痛くなった。中学生のときは詩を読んだ。寺山修司、中原中也、萩原朔太郎、室生犀星など、詩は短くてインパクトのあるフレーズが多く、夢中で読…

「さらばリハビリ」~(18)パラリンピックの本当の意味と原点とは?

リハビリテーションの語源はラテン語で、re(再び)+ habilis(適した)、すなわち「再び適した状態になること」「本来あるべき状態への回復」などの意味を持つ。また、猿人と原人の中間に意味するホモ・ハビリス(homo habilis、「器用なヒト」)が、道具を…

「さらばリハビリ」~(17)「リハビリはやっただけ回復する」の嘘

私が回復期病院に入院して2ヶ月くらい経ったころ、一人の老婦人が車椅子に乗ってあらわれた。彼女は大きなフレームの眼鏡をかけ、総白髪のショートボブのヘアスタイルで、まるでフランス辺りの映画プロデューサーみたいと私は思い、興味を持った。私は彼女…

「さらばリハビリ」~(16)大島渚の「リハビリ拒否」

あるとき偶然、大島渚のドキュメンタリー番組を回復期病院のテレビで観た。大島渚は1996年1月下旬、10年ぶりの作品となる『御法度』の製作を発表した。しかし、同年2月下旬に渡航先のロンドン・ヒースロー空港で脳出血に見舞われた。その後、3年に…

「さらばリハビリ」~(15)急いでリハビリする必要はあるのか?

脳梗塞を発症したとき、死んだ脳細胞の浮腫ができているかもしれないので、安静にしていないといけない。が一方で、動かなくなった手足を早いうちに動かさなければならない。 アメリカの病院ではさっそくリハビリを開始した。言葉はまったくわからないが、療…

「さらばリハビリ」~(14)中途障害の落とし穴

野溝七生子『山梔』に、こんな引用がある。 将来に、望みをかけるほど、それほどの無感覚さが恐ろしい 高原英理『少女領域』のなかで、この部分を解説している。 […]簡単に告げておけば、前進・進歩を何よりの理念とした近代国家日本が、明治を終えた頃、…

「さらばリハビリ」~(12)リハビリテーション料の根拠は「量(時間)」より「質(効果)」

病院にいたときと自宅にいたときで、担当療法士の経験値(技術や知識)の落差が激しいことを知った。そのぶん、リハビリ病院の療法士は比較にならないほどレベルが低い。修行も足りないし経験値も低い。それゆえ賃金も安いだろうし、病院経営は低賃金の療法…

「さらばリハビリ」~(13)一番親しかった患者

回復期病院の患者で、車椅子に乗った大柄の40代男性がいた。仮に彼をOさんとしよう。Oさんは毎日ナースに向かって話し、いつも帽子を被り、食事のときはテレビ画面と反対の方向に座って食べ、一番早く食べ終わっていた。 私はOさんの不思議な行動に軽い疑問…

「さらばリハビリ」~(11)3.11の大地震

2011年3月11日(金)晴れのち曇り、突然地震 昨日の昼、中堅ナースに相談した。私の言いたいことをよく分かってくれたが、「主治医に確認しなかったことは主治医に聞いたの?」と尋ねた。「いいや」と私は言った。「不明な点は確認しなよ。すぐ言いな…

「さらばリハビリ」~(10)なんでこんなに腹が立つのか?

急性期病院のころからSTのリハビリは受けていたのだが、言語の回復は身体の回復と同じくらいか、それより遅い。もともと無口で人嫌いの私は、健常者のときから心を開かないと口も開かぬような性格だった。 私の言語障害は高次脳機能障害と構音障害(言語障害…

「さらばリハビリ」~(9)私と風呂と高血圧と

回復期病院の終盤である。OTに言われたが、入浴評価がまたあるらしい。今度は着衣で浴槽に浸かる準備をして、改めて入るから時間がかかる。ほほほほ本当? 倒れた当初は、浴槽に浸かると身体が暖まって血の巡りがよくなり、脳が再出血するから危険だと言われ…