「さらばリハビリ」~(26)装具の交換などいろいろ面倒くさい生活

 退院した患者たちは電動車椅子を注文せず、そのまま歩いて回復していった。最初から電動車椅子の楽チンライフを夢見た私は、心のなかでリハビリを拒否し、怠けていた。

 電動車椅子と歩装具(短下肢装具)を併用し、歩装具は入院時に制作した黒いシューホングレイスだが、左足だけ靴のサイズが違って面倒臭い。介護用靴ならサイズはちょうどいいが、デザインがダサいのでげんなりする。ただでさえビッコ引き引き歩いているのに、介護用品は全然オサレじゃない。

 

【オサレその1】

 以前、テレビで見た内田裕也の杖が格好いいなとずっと思っていたので、ネットで「杖 おしゃれ」を鬼検索。裕也の杖は、ドイツ製のガストロック社であると判明した。しかし、裕也はマジでオサレアイテムとして使用していたので、私のようなガチで杖に頼っている者にとっては、オサレ杖は少し計算が狂った。柄のところが細く、体重をかけると手のひらが痛い。もう少し太い柄の杖を同社で注文した。杖底の替えゴムも通販で、一気に十個注文した。

 

【オサレその2】

 「若い失語症の集い」で歩装具ゲット。その名もゲート・ソリューション・デザイン(GSD)。通常の靴も履けるし、油圧式で奇麗な歩行もできる。以下、パシフィック・サプライ株式会社のサイトより引用。

(1)踵接地時に底屈の動きを、油圧により制動することにより、滑らかな体重移動を可能にする。
(2)なめらかな体重移動により自然な歩容を得ると同時に、左右の対称性、バランスのとれた歩容を実現することができる。バランスのとれた歩容を実現することにより、きれいに歩ける、つかれない、歩行速度の増加などの効果を得ることができる。
(3)遊脚相つま先のクリアランスを確保することができる。

 

 使い始めたころは、部屋でOTに捕まりながら、まるで生まれたての子鹿みたいにヨロヨロしていたが、毎週の散歩によって杖歩行がかろうじてできるようになった。桜が満開な季節で、私は歩いて川縁の桜が見たいと思い、橋の近くまで寄ったときに転んで眼鏡を壊し、顔面に傷をつけてしまった。慢心の結果が顔面の傷である。しかし、転んで擦り傷や切り傷をちょっとつけただけなのに、顔面はボコボコにグロテスクに腫れる。特に目の周りが、試合したてのボクサーのように腫れる。その後OTが「単独歩行禁止令」を出し、私は懲りて大人しく従った。

 転居して、近くの訪問リハビリのOTに「車椅子を卒業したい」「長く散歩して疲れないようにしたい」とリクエストを出したら、「ミヤマさんは左脚を信頼していないようです。体重がきちんとかかっていなくて、常に重心が右寄りですから、左脚に体重を乗せようとすると右に引っ張られますね」と言われ、最初は白魔法をかけられたようにフワッフワと歩き、後から黒魔法で股関節の違和感があった。違和感というより少し痛い。おそらく回復過渡期だろうが、次の日はゲート・ソリューション・デザインの本領発揮である。油圧式のバネに麻痺脚がちゃんと作用し、左足先の感覚はいまだにないが、太腿や体幹でバネの動きを感じるようになった。まるで片脚だけのスキーヤーのようであるが、また慢心して調子こいて転倒しないよう慎重に部屋のなかを歩いている。

 

【オサレその3】

 「靴ひもが結べない」とOTに相談して、「ベルクロがいいよ」と情報ゲット。ベルクロとは、マジックテープ(面ファスナー)が3段になったスニーカーである。楽天とアマゾンで入手可能。ただ、GSDのため足首が太くなるらしく、ワンサイズ大きめの靴を注文した。インナーソールでも調整は可能であり、右足裏が常時痺れているのでクッション代わりに丁度いい。介護靴より断然にオサレである。コンバースのスニーカーみたい。

 「ゆくゆくはこの靴を履き潰して、新しい靴を注文するんだい!」とホクホクしていたが、気が緩んで部屋で転倒し、パニックになって急いで立ち上がろうとしたら、ゲート・ソリューション・デザインの金具に引っ掛けて、右靴のソールがベロンとはがれた。意図せぬベルクロの新規購入である。新しい靴のメーカーは違うがサイズは同じで、右足も硬くて履きにくかったが、左足はさらに履きにくい。いや、履けない。両面テープと面ファスナーを準備して、今度OTに靴を改良してもらう予定である。

 

 その他、就寝中、体位変換(寝返り)しやすいのでナイロン製の上下のジャージを着用している。私は「シャカシャカした服」「シャカパン」と呼んでいる。Tシャツやインナーは伸縮性のあるユニクロが断然着やすいし、型くずれしにくい。冬はツルツルの防寒具の上下だ。羽毛布団一枚で、電気毛布をつけて丁度いい暖かさであるが、もしかして私の体温調節は狂っているのかもしれない。

 便利なようでそうでもないのが電動車椅子である。バッテリーやタイヤは5年に1度交換し、傷ついた前輪も交換した。そうするとフットステップの調整が必要であり、坂道の多い私の家の近所は不便だ。田舎道は電動車椅子に優しくない設計である。この次は段差を乗り越えられるWHILL(パーソナルモビリティー、次世代型電動車椅子)を介護保険レンタルしようと思うが、既存の車椅子があり、その車椅子が故障して取り替える部品がない場合以外は、WHILLの試乗はできないらしい。介護保険レンタル前提で試乗しようと思っていたが、購入予定前提のシフトじゃないと試乗できない。後は頼れるケアマネに任せておいていいだろう。

 土砂降りのとき、「どこでもさすべえ」という便利グッズを取り付けたが、傘が邪魔なのでポンチョにした。梅雨の時期、片麻痺は強制引きこもりになるが、誰かがどこかで便利グッズを発明しているはずである。車椅子用防水カバーはすでに存在するが、青いシートのベビーカーオバケである。どう見ても罰ゲームにしか見えないので購入を拒否している。そもそも、土砂降りなのに外出しなくちゃならない用事が、いまのところ私にはないらしいので、罰ゲーム防水カバーの購入は永久に延長してある。

 ペットボトルは、滑り止め用シートを10センチ四方で切った2つのもので開けているが、そろそろ経年劣化しているので代用の滑り止め用シートを購入しよう。片手でできる降ろし器を愛用していて、炒め用とパスタ用にトングを使用している。瓶やポットの汚れは食器ブラシで片手でも奇麗になる。炊飯ジャーはご飯を堕落させるものとして、私は土鍋と圧力釜で玄米ご飯をずっと食べてきたが、発症後は電子レンジ専用の「ちびくろちゃん」を知り、愛用している。洗いやすくて、2合サイズでちょうどいいし、冷めたらレンジでチンすればいい(2019年現在、「体重は落とすべし」とのPTの指令で低糖質ダイエットしている。低糖質ダイエットは専門家の間で賛否両論があるが、そもそも運動できないので、ご飯、麺類など糖質をなるべく食べないようにしている)。