「さらばリハビリ」~(30)アバウトに聞かれるオープン型質問と、YES/NOで答えるクローズ型質問

 介護や看護で用いられる面接/会話技法に、「KOMI理論」がある。この技法はかなりメジャーなので簡単に説明する。

 患者とやり取りをする質問には2種類ある。クローズ型(YES/NOで答える)質問とオープン型(YES/NOで答えられない、もしくは5W1Hの)質問である。例を挙げよう。


・クローズ型質問
 「その後、変わりありませんか?」「気分はいいですか?」「熱はありますか?」「痛みは感じますか?」「夜眠れましたか?」

 

・オープン型質問
 「その後、いかがですか?」「気分はどんな感じですか?」「熱の具合はどうでしょうか?」「痛みの具合は、どんな感じですか?」「睡眠の状態はいかがでしょう?」

 

 クローズ型質問は、答えが「はい/いいえ」とシンプルにしか返ってこないのに対し、オープン型質問をされた人は、自分の状態や感想を自分の言葉で説明しなくてはならなくなるそれが私には難しい。

 考えながら喋ることは、いまの私にとっては高等な技術である。歩きながら喋ること、考えながら喋ることなど、喋ることを含んで同時並行的に行動することは、自分が歩いているのか喋っているかわからなくてパニックになり、考えながら喋ることは、喋っている自分が何を考えているのか混乱してわからなくなる。「てにをは」の助詞をどうつけるのか、接続詞はこれでよかったのか、日本語って本当に難しい。相手に理解させる前にまず自分が文章全体をまったく理解していない。これは困った。

 「若い失語症のつどい」の参加者が、こう言った。「自分は大阪生まれの大阪育ちなんですが、失語症のせいで大阪弁を喋れなくなりました」。また、英語が堪能な人は、発症後、英語が全然喋られなくなる。かと思うと、これまで普通に英語で会話していたのに、発症後はまったく見知らぬ言語でベラベラ喋るのである。ある言語研究者が調べてみると、現在では誰も使わない古語の部類だった。もはや失語症はミステリーの域に入った。

 この2つの質問はかなりメジャーではあるものの、看護や介護に携わっていない人たち、また看護や介護業務外にいる人たちには、質問型を考えず、無自覚に会話するものだろう。私がこれまで質問された事例を挙げよう。

 まずは駅員である。私は駅から出発し、駅員に「○○まで」と目的地を告げる。各駅電車しかない電鉄会社はまだいいとして、急行・特急が同時に発車する電鉄会社は、特に駅員が親切な場合は逆に厄介だ。

「いまでしたら、○○まで各駅で行かれますか? それとも△△で降りて急行を待ちますか?」「特急と急行がありますが、どうしましょうか?」

 親切心もありがた迷惑である。私は返答に困ってしまった。考えても頭のなかが真っ白で、何も答えられないのだ。

 また、就職の面接のとき、面接官はこう言った。履歴書には「言語障害失語症」と書いているのに、である。

「さて、これで面接は終了です。ミヤマさん、いかがでしたか?」

 最初はスラスラ喋っていたのに、最後の最後で絶句だ。高次脳機能障害失語症の私が答えられないのは、質問がアバウトすぎるのだ。健常者のお前の質問が下手なのだ。確かにオープン型質問は、面接の場合は短時間で相手の情報をより多くゲットすることができるが、ただしそれは健常者に限った話である。