【百合ダス】湯浅芳子とは、この私だ。【所感】

お久しぶりでございます。去年の10月からサイト更新せず、ず〜〜〜っと『百合ダス』カンパの報告でしたが、今日ようやく劇場へ行き、本編を初めて観ました。

といっても、わたしは「原作」も「映画」も知らぬままでして、無知な状態で本編を観ることはシートベルトをせずに超高速を駆け抜けるくらい危険極まりないことです。死ぬかと思いました。





なぜかって? 愚問ですぜ旦那。なぜならそれは…。



















あの映画はブッチレズの黒歴史の封印を開く鍵であり、トラウマのトリガーであり、
踏むと脚を軽く吹き飛ばされる地雷です。
あなたは地図なしで孤独な戦場を行けるでしょうか。



ちなみに、あなたがブッチレズだとして、『百合ダス』をまだ観てないとしましょう。いや観てもいいんですけど、そのときは湯浅芳子(あるいはモヤ)目線で、ぜひ。





イメージしましたか? それではご覧ください。










『百合子、ダスヴィダーニヤ』予告編


え? わたし? 何回も観ましたよ(不敵笑)。トラウマって無意識の防御が働いくせいか、劇場では平気でした(ほくそ笑)。監督に呪詛の言葉を吐き(空笑)、お友だちとランチ女子会をし(さらに空笑)、あることないことペチャクチャしゃべり(壊笑)、帰宅して常時オンしているPCのスリープを解除してYouTubeで検索…。



涙滂沱(*注:タイムラグあり)。






見てください、聞いてください、凝縮されたレズの言葉を。まるでわたしが吐いたかのようなセリフです。






●トリガーその1
芳子「私の人生に揺るぎないものなんて、何もないのさ」


なんということでしょう。この魔法の言葉はどうやらタイムスリップの効果があるようです(ただしレズのみ)。

足下がふわふわしておぼつかない感覚、胸にぽっかり穴が空いた感覚。10年後のわたし、未来のわたしのイメージができません。いまのわたしは「女が好き」なだけで人生の落伍者となり、アウトローの道を進んでいます。誰に教わったのか、20歳で「けものみち」を歩くんだと暗い焔を燃やし、それでもおっかなびっくり歩いています。「けものみち」は断崖絶壁で、一歩でも道をはずすと深い深い奈落の底に落ちていきます。行き着く先は死、墜落しても死。

当時お付き合いしていた女性は「けものみち」をついてゆく自覚などなく、このままだと地獄へ道連れです。かといって引き留めるのもふたり地獄、わかれてもひとり地獄。わたしもかじょのも手をつなぐことすらできず、いつも丸裸のまま冷たい猜疑心の風にさらされています。まるで因幡の白ウサギです。ハッピーエンドなんて夢の夢のそのまた夢で、とうてい考えられませんでした。卒業して田舎に帰ろうとするかのじょを引き止めたら、「ふたりとも生き地獄になる」と恐怖してました。無知なわたしが恐怖そのものです。

だからこそ、別れのときは「行くな、ここにいてほしい」と言えず、電車の中で二人とも黙って泣いていました。まさか『22才の別れ』を地でやるとは。そっか大学生だったのね、都会に残る者と田舎にIターン就職する者の話かー、なるほどなー、と関心している場合ではありません!!!

こんなこと、親しい友だちにも、ましてや家族やきょうだいにも言えません。恋愛はもちろん、人生や仕事を相談をすることもできません。悲しくて辛くてひりひり灼ける胸のうちを、全部黙ってひとりで耐えなくてはなりません。言葉をずっと飲み込んでいると、そのうちだんだん腐ってきて心を侵蝕していきます。

そういえば、あのころは日記代わりに毎日詩を書いていました。知らず知らず言葉をひっそりと「陽にあてる」ことをしていました。今日からわたしは「詩人」と名乗ります。ギター片手にほろ酔い気分で(嘘。



●トリガーその2
芳子「私に愛を語る資格なんてあるのかーーー愛した女たちは、いつも男の元へと去ってゆくーーー」


このセリフは、せめてトレンチコートの襟を立て、日本海の荒波が岩にぶつかりしぶきなどを見つめながらカモメがミャア!!ミャア!!と鳴くというダンディな演出をしましょうか。いえ冗談ですすみません。

さて、あれから17年の時がタチ経ちました。まさかとは思いますが、35歳にして(男と結ばれるために)女と別れるなんて夢にも思いませんでした。しかも、妊娠→出産→結婚と、免疫のないヘテロなメインイベントばっかりでパニックです。レズレズと必要以上に自分を鼓舞し、結婚をdisり、「妊娠/出産なんてしたら死ぬ」と言い…あれは確かにわたしの恋人だったでしょうか。似てはいるけどどう見ても別人ですよね。マリックもビックリのイリュージョンです。タイミングよく仕事もなくなり、レズの人生八方塞がりです。ほんとに荒みまくり、半年ほど狂った修行僧のような真似をして無事にサバイブしました。いや〜、辛かった。35歳で麻疹になったら間違いなく死ぬよね。いくら仲間と知識と経験があっても。

だからこそ、スクリーンの中で淡々と語る芳子の言葉を聞くと、「あなたはわたしだったのか」と時空と次元を超えてリンクしてしまいます。100年経ってもレズの人生は変わらないのかとひとびとは落胆し、芳子の呪いを解く呪文を社会活動家は必死で唱えますが、虚しいばかりです。




●トリガーその3
芳子「だから女なんて嫌だ!!」



この短い言葉は、レズの人生で言うべきことを端的に表現しています。女に惹かれると同時に嫌悪する、レズ分裂病の時間がやってまいりました。2ちゃん風に言うと「レズの人生オワタ\(^o^)/」です。人生がゲームならレズはとっくに積みゲーです。

わたしは何度も何度もこれらの言葉を反芻します。自傷行為と同じです。この痛みがだんだん心地よくなってきました(ぉぃ)。

映画も人生も、走馬灯のようにぐるぐると回っています。鮮やかにくっきりと。なぜかわたしは大学生に戻り、いつものように授業が終わると誰ともしゃべらず、そそくさと教室を去っていきます。そして41歳のわたしはクラスメイトたちとペチャクチャしゃべってはいますが、21歳のわたしの足下が教室のドアから消えないうちに声をかけなくてはなりません。「ねぇ、こっちにおいでよ」って。「いまの話、どう思った?」って。でも片麻痺のわたしの言葉は不明瞭で、声も小さく、足早に歩く21歳のわたしには聞こえません。わたしは必死に目で追います。かのじょを見失わないように、わたしを見失わないように。




感想:『百合ダス』は鬼門、『百合ダス』はアシッド、『百合ダス』はドラッグ、『百合ダス』はブッチレズの踏み絵。こんなに鬼気迫るレズビアン映画は初めてです(涙目)。



いいですか? 映画館を出て青空を見上げて「あー、面白かった〜♪」などと決して言わないでください。あなたがブッチレズなら、うなだれて靴先を見ながら消耗しきって家路についてください。この映画をヘテロカップルで観に来るなんざ厚顔無恥極まりないと思います。でも芳子の悲劇はブッチレズにとって「恋愛の普遍性」を恐ろしいほど抱かせられます。


まだ観てないや、という強者レズは明日まで。生きて帰ってきて。でも過去の記憶を死ぬほど掘り下げて。


あ、それから『百合子、ダスヴィダーニヤ』における湯浅芳子宮本百合子は、レズビアン文献的に言えばヴァージニア・ウルフとヴィタ・サックヴィル=ウェストくらい年代物の貴重な映像資料になると思いますよ念のため。それを製作したのが「ヘテロ」の映画監督だっていうからその執念たるもの大したもんだわ。(いろいろな意味で)死なずに観て良かった。



*『百合ダス』ちょっとこぼれ話:映画公開後、宮本百合子の描きかたが不謹慎だとんでもないけしからんと激しいクレームが熱狂的な宮本顕治ファン(?)から入っているとのこと。いまもなお共産党のカリスマである宮本顕治らしい話です。




百合子、ダスヴィダーニヤ(公式サイト)
百合子、ダスヴィダーニヤ(渋谷区付近の上映情報)



追記(20101117)
さっきtwitterで判明したんですが、「レズビアン科芳子属」「レズビアン科百合子属」「レズビアン科セイ属」「オタク科荒木属」などがあります。統一した定義はまだありません。