中島みゆきはオデが育てた(4)

「あなたでなければ(2006年)」


「東のユーミン、北のみゆき」と言われるほど、中島みゆき松任谷由美は同世代における永遠のライバルである。ユーミンのデビュー曲『ひこうき雲(1973年)』は、衝撃的だった。「シャングリラをめざせ(1984年)」では、「絶望は宇宙に選ばれたしるしよ」と歌っている。すんげえ〜ポジティブ! てかパネエ選民思想!!


それはそれとして、ユーミンとみゆきの歌詞を比較してみたい。
共通点は、「<あなた>はもう<私>を愛していないに違いないが、<私>は今でも<あなた>を愛し続ける」という点である。


「あなたでなければ」 作詞/作曲/歌手:中島みゆき


【動画】
*いつの間にか動画が消えていたので新【動画


見間違えるなんてはずは ありえないと思うんです
聞きそびれるなんてはずは ありえないと思うんです
馴染んだあなたのことぐらい わかりきったつもりでした
見慣れたあなたの肌ぐらい 思い出せるつもりでした
その肌は誰のもの
その声は誰のもの
知らない人を見るようで心もとなくなるけれど
あなたでなければイヤなんです
あなたでなければ駄目なんです
似たような人じゃなくて 代わりの人じゃなくて
どうしてもあなたにいてほしいんです


そうです出会った日のあなたとも ほんの昨日のあなたとも
違うあなたになれるんですね 人は変わってゆくんですね
そうよね変わらないつもりでいた私だって 変わるんですよね
どうせ変わってゆくものなら あなたと一緒に変わりたい
その爪は誰のもの
その文字は誰のもの
あなたを1から覚えなきゃ 私を1から言わなきゃね
あなたでなければイヤなんです
あなたでなければ駄目なんです
似たような人じゃなくて 代わりの人じゃなくて
どうしてもあなたにいてほしいんです


海を見ていたせいかしら
はるか見ていたせいかしら
あなたの目に映る世界に私がいないようで 海を憎んだ
あなたでなければイヤなんです
あなたでなければ駄目なんです
似たような人じゃなくて 代わりの人じゃなくて
どうしてもあなたにいてほしいんです
あなたでなければイヤなんです
あなたでなければ駄目なんです


「Woman」 作詞:松本隆 作曲:呉田軽穂 歌手:薬師丸ひろ子


【動画】


もう行かないで そばにいて
窓のそばで腕を組んで
雪のような星が降るわ
素敵ね


もう愛せないと言うのなら
友だちでもかまわないわ
強がってもふるえるのよ
声が…
ああ時の河を渡る船に
オールはない 流されてく
横たわった髪に胸に
降りつもるわ星の破片


もう一瞬で燃えつきて
あとは灰になってもいい
わがままだと叱らないで
今は…
ああ時の河を渡る船に
オールはない 流されてく
やさしい眼で見つめ返す
二人きりの星降る町


行かないで そばにいて
おとなしくしてるから
せめて朝の陽が射すまで
ここにいて 眠り顔を
見ていたいの



中島みゆきは一人三役もやりこなしているが、ユーミンはまるで「ブレイン集団」という組織化でこの一曲を完成させた。どちらも天晴れという感じである。歌詞だけを読むと共通点はあるものの、中島みゆきのほうが積極性というかバイタリティを感じさせ、一度究極のド落ち込みから反動で浮上している感覚である(松本隆の歌詞はちょっと情景描写が入っててロマンティックであり、ややメランコリーを感じさせる)。


現在は、下手をすればストーカー扱いとなるから、願望(欲望)と現実のギャップは大きい。その想いを相手に実行させまいと抑制し、停止せずに思考を続け、歌詞や作曲で昇華して、多くのひとたちに届ける。その精神力は強靭だ。中島みゆきはかつてラジオで、「あたし、一度のことを(曲に)百回書くまで、しつっこいのよ」と笑って言った。


ゲイのなかでも「みゆき派」「ユーミン派」というグループ分けがあり、彼女らの歌をゲイたちは自分に寄せ感情移入させてカラオケをする(なかには「松田聖子派」もある)。ユーミンも歌ったことがあるが、オデはやっぱり筋金入りの「みゆき派」だ。

ゲイ業界(?)では「秘すれば花なり、秘せずば花なるべからず」(世阿弥風姿花伝」)と言われているらしい。秘めるからこそ花になる。秘めねば花の価値は失せてしまう、という意味だそうだ。
中島みゆきもまた「秘すれば花」であり、オーディエンスの想像の翼を見事に活用している。



さて、中島みゆきの40枚目のアルバム『問題集』がもうすぐ発売(2014/11/12発売開始)である。表面的かつ時代的には変わりゆく中島みゆきだが、その個人の核心は変わらない。このアルバムを聴きながら、「中島みゆきはオデが育てた」、あるいは「オデは中島みゆきに育てられた」と誇らしく思うだろう。


おわり。

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