モンスターなテイコさん、エイリアンなススムさん(3)

つづき。

オデにはやりかけの仕事がありましたから、MacのノートPCと携帯を持っていき、東京にいる知人友人、取引先に連絡しました。
ススムさんは退職して近所の幼稚園に復職したもので、それ以来タバコは一切吸っていません(でも灰皿はあるという矛盾が)。
オデはススムさんに許可をもらい、ソファに座ってタバコをふかし、携帯とノートPCをいじっていました。


いつの間にか、フミカさんが地べたに正座しているのに気づきました。
オデがフミカさんのほうを見ると、突然「タバコ吸わないで! 私、お腹の中に赤ちゃんがいるから!」と怒鳴りました。
意味不明です。何を威張っているんでしょうか。
「あっそ。そんなら父さんに言ったほうがいいよ。ここは父さんの家だしね」
オデはさっさとその場から立ち去りました。やってらんねーぜ。


ススムさんは、フミカさんのダンナと一緒に庭の雪かきをし、棺桶が入る導線をつくっていました。「男同士」で連帯しているんだろうけど、その様子は気張りすぎていて、どっちも演技過剰で滑稽で、ちょっと引きました。


それから、葬儀屋さんがきて、死んだテイコさんの死に化粧や死に装束を施しました。
(オデら親族一同は見てないです。たぶんこれは推測で)
部屋の布団で横たわっていたテイコさんを棺桶に移動し、雪洞を灯すなどして、豪華になりました。


続いて、テイコさんの兄姉と、ススムさんの異父妹弟がやってきて、酒盛りみたいなことをやりました。
ススムさんの異父妹は、昔、テイコさんと結婚するときにトラブルがありました。スタートからして失敗です(それは後述します)。


その妹さん(オデにとっては叔母さんです)がオデに寄ってきて、「あなた東京に住んでいて、ライターさんなんでしょ? 私の娘も東京に行くって言い出しているんだけど」と、いきなり相談めいた話をするので、「わたしは出版社勤務の経験はありませんから。わたしがライターなのは偶然ですね。あるいは縁というか」と、やんわりとその相談は断りました。相談しても、娘に協力する義理はないし、娘の能力もわからないし、そもそも紹介する出版社をオデはまったく知らなかったのですから。


ついでに異父弟が酒に酔い出して、みんなで「あいつ、人格が変わっている!」と密かに驚愕するんですが、オデは通常の異父弟を知らないので、話の通じる限り話しました。ススムさんが後で言うには、「あいつは酒乱だから、俺も避けている」と。
なんでそれを最初に言わなかったのよ?!ずるいじゃないの!!


その宴会で盛り上がっているのは、ススムさんの親戚一同とオデだけでした。テイコさんの親戚は通夜が終わるとそそくさと帰りました。オデはちょっとだけ気の毒になりました。自分たちの末の妹(テイコさん)が自殺するなんて、さぞかし肩身が狭かったでしょうね。


フミカさん夫婦は、隅っこのほうで大人しく静かに飲んでいました。幼い姉妹もそんなにはしゃがなかったようです。
昔、実家にフミカさんと一緒に暮らしていたとき、学校で静かに大人しくしているのは嘘ではないかと疑うほど、彼女は活発でよく喋りました。

(いま思い出せるのは、フミカさんの腕を冗談でカッターで軽く切ったことと、理由は忘れましたが、オデはものすごく怒ってフミカさんの布団にストーブのヤカンの水をかけたことくらいです)

ところが、結婚して子どもができたせいか、それとも丸10年も会わなかったせいなのか、いまではすっかり他人行儀(というか赤の他人)だと端から見てわかりました。

つづく。