婦人科医に聞ける!FTMと治療 本当のトコロ ー健康に暮らしていくためにー(9)

▶質疑応答
Q1(司会):ホルモン注射を続けていると、子宮卵巣は癌化しますか?
吉野先生:端的にはノーです。ホルモン打ったからといって、それで癌になるわけではないです。さっき言ったように、子宮の入り口の癌はセックスによるウィルス感染で発癌します。奥のほうの胎癌は、産まなくなっていることで増えている病気であって、要は月経が繰り返されることで、内膜の癌なので、内膜って月経の前にそれが厚くなって一気に剥がれ落ちて、すごく大きな変化で、これを毎月毎月やると、そういうところは癌化しやすい。排卵も卵巣から卵子が出るんだけど、卵巣が壊れるんですね。次の月まで修復して、壊れて治してを繰り返されるところは癌化しやすい、遺伝子のミスが起こりやすい。卵巣癌も昔の3倍くらい増えてるし、子宮体癌も増えてる。これは、月経の周期がたくさんくるほどなりやすい病気。
そのへん、どの医療状況かといえば、癌検診は子宮癌はさっきの検診でもできます。卵巣癌の検査は超音波の検査をやります。超音波のエコーで、普通は、みなさんの膣の中にプローブという機械を入れて、後で実際にみなさんに見てもらうんだけど、膣は、セックス経験のない人は痛いので、肛門のほうから入れることもあります。膣と肛門からまったく同じ画像が撮れます。膣と直腸は並行して、ぴったりくっついている状態なので。お腹の上でもできますが、卵巣ってちっちゃいので、よほど大きく腫れていないと撮れない。ということで、肛門からの検査が一番お勧めです。痛くはないです。ちょっと気持ち悪いけど(苦笑)。

Q2(司会):男性ホルモン注射を途中で止めたらどうなりますか?
吉野先生:これも手術してる/してないによるんだけど、卵巣が残っているかたであれば、女性ホルモンが優位になる、元の身体の状態に戻るだけのことで、それだけですね。

Q3(司会):健康面ではどうなっていきますか?
吉野先生:さっき言ったように、女性だって当然いろんな病気のリスクがあるので、そこを留意していくということだけど、止めたからといって特に大きな健康面では起こることはないと思います。もちろん、体調とかその辺は変わるんだけど、止めちゃうとね。

Q4(司会):治療中のFtMの血液検査の数値なんですが、身体の健康面の観点からは、男性と女性とどちらを診るべきでしょうか?
吉野先生:正常値ってこと? トコノマアンチ(??? 非常に聞き取レズ!)って血液の正常値でわかるので、女性ホルモンも男性ホルモンも血液検査で測れるんですね。頭のほうから命令するホルモンも測れるので、更年期の人たちのホルモンをよく診るんですけど、ホルモンの数値というよりも、やっぱり自分の体調だと思います。更年期の人とまったく同じことが言えるんだけど、ホルモンの数値がすっごく悪いのに、あまり症状が出ない人、かと思うとホルモン値はけっこういいのに、ものすごい不定愁訴を言う人もいます。これは体調が大事です。もし、体調が悪いのであれば、それを何とかしたほうがいいわけだし、特に体調が悪くなければ、そのホルモンの量がその人にとっての適性量だと思います。

Q5(司会):ホルモン打って、男性として生きるじゃないですか? 病院に行って、健康の検査して、数値が出るじゃないですか? 検査する側が、たぶん男性だろうと思うんですけど、男性のあるべき数値として診るのか、あるいは女性のあるべき数値として診るのでしょうか?
吉野先生:一般の健康診断の話ね? そのときのホルモン状態によると思う。男性ホルモンが優位なら男性で診るだろうし、女性ホルモン優位なら女性だし。けっこう違うんですよ、数値。貧血なんかも男性のほうがヘモグロビン濃度が高いし、女性は月経があるために貧血になっちゃう人が多いので、正常値のレベルがもっと低いよね。あと、女性でも年齢によってホルモンの数値が違うので、年齢によって正常値が変わるんです。一番影響を受けるのは血圧とか高脂血症。これは女性ホルモンの影響をすごく受けるので、更年期になると女性も血圧が上がってきたり、コレステロールが上がったりとか、女性ホルモンの原料はコレステロールなんです。女性ホルモンを作らないと原料がダブついてくるのは当然で、40代後半になると急にコレステロールの数値が上がってくる。男性の場合はコレステロールあがっちゃうと「メタボだメタボだ」って言って、心筋梗塞や脳溢血になるから薬飲め飲めってやるんだけど、女性はそれが必要のない人が多い。ところが、大学の先生はホルモンのことを知らないので、コレステロールが高いと「これを飲みなさい」と言って無駄な薬を出されるのが現実です。世界で一番売れているのが高脂血症の薬です。


オデ:オデも飲んでいます。脳梗塞もやったし、糖尿病なので、バイアスピリンとかアマリールとか糖尿病治療薬を数種類飲んでいます。


吉野先生:そうね。女性ホルモンは血管系の、脳梗塞心筋梗塞を予防するほうに働くので、若い女性たちにはそういう病気は少ないんですね。男性のほうがやっぱり多い。ところが更年期を経て閉経後になると、女性も男性と同じようにそういう病気が増えてきちゃう。それはホルモンが低下したことで守りがなくなったってことだもんね。卵巣をとった場合は、ちょっと気をつけないといけないかなって思いますね。
あと閉経後、骨とか弱くなるので骨粗鬆症が、男性より女性のほうが骨がスカスカになっちゃう人が多いので、女性は長生きですけど、「健康寿命」といって、自分で身の回りのことができる、健康でいられるっていうのは、86歳より13年くらい、73歳くらいになります。寝たきりの状態で13年長生きしてもしょうがないって話なんだけど、女性の寝たきりの一番の原因は、自宅で転んで骨が折れて寝たきりになってボケていくというスタイルがけっこう多いです。それ、骨粗鬆症だから。いま骨のお薬もいろいろあるので、卵巣とった人は、骨のことはちゃんと考えていかないと。男性ホルモン打っても骨は強くならない。だから、骨のお薬は使ったほうがいいんじゃないかと思う、将来のために。いますぐ骨折するっていう意味じゃないから(笑)。卵巣とったからといって1年2年に骨折しやすくなるわけではないが、40代50代以降になったときに骨が折れやすくなるので、骨の健康の予防は早いうちからしておかないと。もちろん、食事とか運動の習慣とかも大事なんだけど、いまはお薬がいろいろありますから。そういうのを積極的に摂ってもいいかなと思います。

Q6(司会):具体的に、骨の健康をキープする方法はありますか? どういうことをすればいいんでしょうか?
吉野先生:適度な運動や、カルシウムとかビタミンDを摂ることですね。

Q7(司会):子宮卵巣をとってなくても、男性ホルモン注射だけ続けている人でも、やはり骨って弱くなってきますか?
吉野先生:うん。骨密度って測れます。うちでも測れるんだけど、うちのは簡易法といって、踵の骨で超音波で測れるんだけど、正式なのは腰椎といって腰の骨のレントゲン写真で測るのが正確です。骨密度も年に1回くらいチェックしとかないと。小さいときの食習慣で、けっこう若い人でも骨粗鬆症になっている人がいるのね。なので、みなさん一度診ておいたほうがいいと思います。

Q8:骨密度の測定って、いくらぐらいでできますか?
吉野先生:「骨粗鬆症疑い」ってつければ、保険適用で測定できるのね。そんなに高くないです。何百円とか。そんなに何千円もかからないです。

Q9(司会):みなさん、一番気になっているだろうと思われるSRSですね、子宮卵巣摘出後の身体の影響ということで、最初に先生からホルモンの役割ってことでお話があったんですけれど、具体的にメリット/デメリットをもう少し踏み込んで教えていただければと思います。
吉野先生:子宮は、妊娠を考えなければまったく必要ありません。まったく影響はない。ただ卵巣は一気にとってしまうと女性ホルモンはゼロになるので、更年期みたいな症状が出てくると、あとは長いスパンで骨や血管が脆くなるとか、いろいろ影響は出てきますね。とってすぐに影響が出てくるのは、ホットフラッシュといって、いきなりカーッと暑くなって汗かくとか、頭痛、肩こりとか、更年期障害だと思います。個人差はあるので、そうでもない人とかなりひどい人がいるんだけど、でも、症状が出る人のほうが圧倒的に多いと思う。


Q10(司会):とってメリットになるのは婦人系の病気の予防になることでしょうか?
吉野先生:そうそう、卵巣癌や子宮癌には金輪際かかりませんよ、って確かに大きなメリットではあるかもしれない(笑)。でも、そんなこと言ったら臓器全部とらないと(笑)。どこが癌になるかわかんないからさ(笑)。


一同:(爆笑)


吉野先生:どういう選択にしても、自分が納得した選択に対して、後の健康をどう保持していくかと思うよ。それは、どっちがいいってことではないの。それはみなさまのご自由に、ってことなんだけど、やっぱり知識がなくてそれを受けるのは、私は勧めない。本当はいま言ったことはみんなに知ってほしいし、メリット/デメリットを全部わかった上で、「でも自分はこうしたい」って言うんだったらOKだと思う。その後の自分の健康面も守れるだったら全然いいと思う。いろんな情報が錯綜してるけど、ネット上の情報はあてにならないから。いま便利で検索すれば何でも分かるんだけど、「それって正解なの?」と思うこともあれば、自分個人の感想だったりしてね。その辺はやっぱり専門家に聞いたほうがいいんじゃないかなと私は思います。
いずれにしても、婦人科は女性ホルモンのエキスパートだから、婦人科はパートナードクターとして持つべきだと私はすごく思うよ、健康を守るためには。普通の、一般の女性もそうなんだけど、なかなか定期的に来て検診しようという若い人が少ないので。だから余計に子宮頸がんが増えちゃってるんだけど。ちゃんと検診していればある程度は予防はできるんだけどね。みなさんに「婦人科来て来て!」と声を大にして言ってんだけど、なかなか来てくんないんだよね、みんな(笑)。


オデ:レズビアンFtMトランスジェンダーは、なかなか婦人科にかかりたくないと思います。というのも、レズビアンは妊娠/出産することがないので、婦人科にかかるきっかけがないのか、性病などで行く場合にも、必ず「異性と性交したんですか?」と問診のときに言われるから、婦人科はヘテロノーマティブだと思うので、レズビアンは行きません。


吉野先生:それはね、女性同士だって性感染症起こすことだってあるし、「男性と性交経験ありますか?」なんて聞かないけど(笑)。


一同:爆笑


オデ:(笑)そりゃそうですけど、大きな病院はそう訊くんですよ。


吉野先生:そうね、選ばないといけない。さっき産婦人科と言ったけど、一口に産婦人科といっても本当にいろんな奴がいるので。


一同:大爆笑


吉野先生:そういうとこ行っちまうととんでもないことになるので、選ばないといけないと思う。それこそ、こういうコミュニティをやって、口コミとかね、その中で誰かが行ってみて、「いいんじゃない?」みたいなのを広げてもらうとか、後は自分で実際に行ってみて、「ダメだこりゃ」と思ったらもう行かない。
いますごく、セクシュアルマイノリティというか、トランスジェンダーのかたは全国に一定数の人がいるので、少し対応が変わってきているというのは割とあると思う。学校でも、生徒さんたちにマニュアルをつくって都道府県が配ったりとか、学校の教師とか産婦人科医とか勉強会やっているとことは、あるにはあるの。10年20年前に比べれば少しは進歩しているのかなあと思うけど、でもほんの少しの進歩で、全部行き渡っていないの。日本は保険診療といって、全国どこへ行っても同じレベルの診療を受けられますよというけど、それは嘘です。本当に新しいこと何も知らないでやっている人もいれば、自分の偏見で「ホルモン剤はうちは絶対に出しません」という産婦人科も、そこらへんにいるんだけど(笑)。そういうのが困るんですよ。


一同:大爆笑


吉野先生:そういうのがあると、賢くなって選ばないといけない。自分が行きやすいところ、話がしやすいところは、東京はそういう意味ではクリニックとか病院がたくさんあるので恵まれてると思います。地方はね、そこの町とかに一件しかないとか、お産もやれば何もかもやるみたいなところで、すごく行きづらいとか、東京は恵まれていると思うから、自分で探してみるといいのではないかと思います。
たとえば、HPとかをみんな病院がつくっているので、それを見て、ちゃんと対応してくれるのかどうかをみてもいいかもしれない。

司会:比較的小さいクリニックであれば、細かく診てくれると思います。


吉野先生:大きい病院は忙しいし、大学病院なんかに行くと、癌とか特化しちゃうから、重症じゃなければ後回しにされる可能性があるので。


司会:自分の通いやすい範囲でホームドクターを見つけることがいいのかなと私は思っていて、私は学生時代からずっと吉野先生にお世話になっているので、見つけられるといいと思います。

つづく。