先生の白い嘘

お友だちに借りていま読んだ。

先生の白い嘘

この漫画を読んだ(女性の)感想は、「痛い」である。自分の心が「痛い」のか、漫画の登場人物を指して「痛い」と感じているのか、果たしてそれはわからない。

オデは、「痛い」のを通り越して、「虚しい」と感じた。世の中のすべてが「虚しい」。だがそこに「欲望(幻想)」はある。生きている限り、その「欲望(幻想)」はついて回る。それでもこの漫画のページをめくることが止められない。それがなお「虚しい」。これは絶対に「褒め言葉」である。


ちょっと前に、『鈴木先生』という漫画原作のテレビドラマがあった。鈴木先生は中学校の担任で、ある女子生徒に密かな「恋」をする。
鈴木先生』と『先生の白い嘘』は、まるで逆だ。だが、男女の非対称があるから、逆などでは決してありえない。



3巻が出るのが待ち遠しい。
そして「虚しい」。



で、2巻目の最後にあった、萩尾望都せんせーのあとがき。

茜色の鳥を飼う、「先生の白い嘘」   萩尾望都

鳥飼茜『先生の白い嘘』はかなりショックな作品だ。
東京都議会で「早く結婚した方が良い」と女性議員に野次が飛ぶ時、
笑ってヤジる男性議員は批判されるまでこれが女性差別だとは意識していない。
それぐらい女性差別は深くさりげなく、実にさりげなく浸透している。
日本は男社会だ。法的に平等であっても長年の慣習がそうはさせない。
女は社会の中で教育、就職、結婚、生活、育児、財産の所有において負担を強いられる。
その不平等や不公平が続いているのは女が弱者だから。弱者はどんなにいじめても良いのである。
声も出せないし訴える場所も持たないから。
しかし女は本当に弱者なのか。男は本当に強者なのか。不公平を強要するものは真の強者なのか。
生徒、緑川椿は気づいている。そして戦っている。
原美鈴先生も気づいている。まだ流されている。
早藤も知っている。利用している。
生徒、新妻はまだ己を知らない。悩んでいる。
ミカがいる。美奈子がいる。彼ら登場人物の立ち位置も関係も、
これまで存在していたのに誰も語ってこなかったものだ。語られてやっと見えるものになる。
ぎりぎりのところで語られている彼らの言葉は強い。あるときはおずおずと。
またはきっぱりと。暴力的に。攻撃的に。羨望と侮蔑。どれも言葉として深い。
そして、新しい。そして痛く恐ろしい。
これほどの言葉を生み出す鳥飼茜という作家はすごい。
男達よ。ページごとに谺する、女の叫びを聞くが良い。
女達よ。目覚めよ。たとえ痛い目覚めであっても。
たとえ理不尽な世界が変わらなくても、心を変えることはできる。笑い飛ばしても良い。
そして、生き残ろう。まだ、明日がある。
鳥飼茜はすごい。私を呆然とさせる、これほどの作品を描くのだから。
平凡な言い方だけど、がんばってください。目が離せません。
そして、暴力的なのに、品がいいです。